ある日の教室、「先生、使っていない削り器があるのだけど、使わないかしら」袋から出してきたのは、かつお削り器。ずいぶん昔に購入して使ってはみたが、思ったほど奇麗に削れずそのまましまい込んでいたらしい。袋に入れて保管していたおかげで新品同様。だが刃のほうは、湿気による錆がひろがっていた。裏には購入した値札がそのままついている。以前、鋏の磨きでお世話になったことがある店を思い出し、有難くい譲り受けた。

削り器を隣に置き車で向かった。店内に入ると職人さんが使う専門のお道具達が並んでいる。カウンターの上を見ると順番待ちであろう新聞にくるまれた刃物が無造作に並んでいた。 「ごめんくださーい」声を聞いた店主が出てくる。私の事情説明をひと通り聞くと、一般向けに出ている道具と職人が使う道具の違いを話し始めた。のこぎりや、鋏(はさみ)等、当時の道具を見せ、預かった道具によっては、熱を加え、店主自ら鍛え叩いた鉄くぎも使用するとのこと。手のひらにのせてくれた物は4角形の青光りをした温もりある釘だった。今は、なかなか良い釘が手に入らないので、古い建物を壊すとき廃棄となる釘を集めておき、必要な時に取り出し鍛えなおして使用しているとのこと。理由は、現在の釘で修理すると、童具を使用中に反発し飛び出してきてしまい、危ないらしい。なるほど…確かに鋼も違うし、形も違う。今は便利になりすぎて上等な道具やパーツが少ないのは確かだろう…。そう思っていると、プロの料理人が使っている削り器も見せてくれた。「おぉぉっっ」思わずカンゲキして声が出てしまった。私が持ってきた物より長く、幅も広く、どっしりとした大工さんが使うカンナのようだった。刃も厚く黒光していた。

後日スーパーで購入した鰹を握りしめ、直してくれた削り器を迎えに行くと、鰹がスムーズに動かせるよう、余分なパーツは取り除かれ、薄汚れていた木面も薄く削り直して新しい木肌からは、ほのかに香りもする。錆びが落ちピカピカになった刃物が見える。持ってきた鰹をその場で削ってみてくれた。一般家庭用の刃物がきれなくなったら、またいらしてくださいとのこと。ウキウキと車に乗せ帰宅した。食いしん坊の私は早速台所に立ち、教えられたとおり鰹を少し温め、削ってみた。ズケー、ズケーと、音を出しながら香ばしい香りがひろがってくいく。鍋を用意し削れたカツオ、カットした豆腐やわかめも入れ、ひと煮立てして味噌を溶き入れた。

赤いお椀から白い湯気が上がっている。両手に持って口に一口。「こくんっ」優しい香りが鼻をぬけていく。普段作っていた味よりもスッキリとし体に沁みわたっていくのがわかる。何だか、ほっと優しい気持ちになった。

今日はどんな具材を入れようか。冷蔵庫を覗き込む。また一つ、お気に入りの道具が増えた。

 

天までとどけ画集・仏様と童子が鯉のぼりに乗っている表紙絵

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