[春の思い出]

今年も春の季節がやってくる。

陽だまりの中、まだ片付けていない火鉢の掃除をする。燃え残った炭を手のひらに乗せ、

転がせてみる。かりんとうのようで、白く粉ふいた炭が、いとおしくなる。

祖父母が生活していた福島は、5月になると、梅、桜、菜の花が一斉に咲く。

風が吹くとそれぞれの花びらが舞い、一枚の絵になる。まだ肌寒い中、歩きながら道中を楽しみ、

家にたどり着く。

都会から孫が来たらしいと近所のおばちゃま達がやって来る。

「ちよちゃんの孫かい?」

「いやぁ~、大変だったなぁ~(遠くからわざわざ、という意味)」

「きりんです」。三つ指ついてお辞儀しあうあいさつ。

「こたつにあたってくれろ」と火起こした炭を足してくれる。こたつの中にぶら下がっている靴下や

ふんどしは、あえて見なかったことにする私。

足元が暖まったころ、お茶うけにお手製のらっきょや梅干しが出てくる。

「都会の人は、らっきょうなんか食わねぇべぇ~?」「煮物なんか食わねぇべぇ~?」

「ハンバーグとかスパゲティとか食べてるんだべぇ?」。一つひとつ、おばちゃま達の質問に

答えていると、ストーブの上でお湯が煮立ってやかんがシュウシュウいっている。

急須にお湯を注いで白い湯気が立ち上がる。私の目の前にお茶がやってきた。やけどするだろうなぁと

思いつつすする。案の定やけどしてしばらく黙る。静かな時間が流れる。ふとおばちゃま達に

注目されているのに気づき、急いでらっきょを口に放り込む。やけどに冷たさが丁度いい。

「おいしいね」と口から出た。「うめぇべぇ。うちで採れたらっきょだべ」と

嬉しそうに答えるおばぁちゃん。

今はらっきょうと梅干し作りは伯父が引き継いだと聞いた。堀こたつ入りに福島へ出かけようかな。

粉ふいた炭を見ながら、祖母も笑っている気がした。

 

2019年3月

 

 

 

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