あたたかな日差しの中で(鹿野山 鹿園ろくおん春号№141)

[あたたかな日差しの中で]

あたたかな日差しの中で、ゆっくりとアルバムを開いた。その中に羊の群れの中、ワンピース姿で右手を上げて笑っている一枚がある。花が好きな母は、暖かくなると牧場へ連れて行ってくれた。色とりどりの花が一面に広がり、母も私もウキウキしてくる。歩くのもおぼつかないが、タイヤでできたピラミットに登ることも、鏡の迷路で写った自分と遊ぶのも、楽しみになっている。白くモクモクした羊たちが放牧されている。近づいていくと、あっという間に囲まれ、出られなくなる。自分と同じ目線の動物が怖くて動けなくなってしまった。 すると母がやって来てヒョイと持ち上げだし、羊にまたがせた。急な出来事に「イヤだ」とも言えず、振り落とされないように、背中の毛をつかんだ。羊は群れへトコトコ歩き始めた。その様子を楽しんでいる母。その笑顔が遠くなっていくのを感じながら、降りられず不安になり、声を出してワンワン泣いた。慌てて走ってきた母は、大笑いしながら「ごめんごめん」と言って降ろしてくれた。

絵本のフワフワな羊さんとは違い、ゴワゴワと固く、チクチクと痛かった。そのあとのことは全く覚えていない。ただ学校に上がり遠足で牧場へ出かけることがあっても、動物には近寄ることはなく、遠くから眺めるようになった。

写真には納まりきれない物語を思い出す。小さな自分がいとおしくなる。だからアルバムは面白い。もし、ワンピースの女の子が目の前にいたら、きっと笑いながら抱きしめて、もう一度一緒に牧場に遊びに行くだろう。

 

2020年3月

天までとどけ画集・仏様と童子が鯉のぼりに乗っている表紙絵

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