豊かな時間
2月が過ぎ、冷えて硬くなっていた地面が柔らかくなる頃、はだかだった樹にピンク色のつぼみが開く。小鳥たちは、春の訪れを歌っている。
忙しい日々の中、家で過ごす時間を大切にしている。我が家にテレビはない。おかげで身近にある、いろいろな音を感じ、楽しめる。 私の大好きな一つにコーヒータイムがある。と言ってもいただくまでの作業が好きなのである。何か特別な自分だけの贅沢な出来事のような気がするから。。。機械を取り出し、折ったフィルター用紙をセットする。豆が入った瓶を持ち、キュッキュッと蓋を回し、開けながら顔を近づけ、すうーっと香りを吸い込みニコニコしてしまう。気分よくスプーンで豆を計り、ざらーっと容器に入れる。ガガガーッと豆を挽く音が部屋中に響く。ゆっくり水がポタリ、ポタリと落ちていく。ポットいっぱいになるまで待つ時間も楽しい。廊下を歩いていくと、モービルが陽の光にあたってキラキラして心地よい。きゅんとする小さな幸せ。耳を澄ますと、自然の音を含め。数多くの音たちに囲まれながら、豊かな時間を過ごしていることに気づく。どの音もいとおしく、一つひとつ聞き分けることが出来る自分の耳を今更ながら、有難いと思う。 「ピィーッピィーッ」出来上がりの合図とともに今日はどれにしようかなと鼻歌交じりにカップを取り出す。コポコポコポーとコーヒーをそそぐと、まろやかな香りが広がる。
桜を愛でようと窓を開けると、優しい風が頬にあたる。
ピンク色に染まった枝の合間から、飛行機が飛んでいくのが見えた。
2022.3月