窓の外に目をやると、木々は揺れ、激しい雨が降っている。置き去りにされたバケツは水がいっぱいになっている。

大雨になると、天井裏は、大丈夫かなと思う。小学生になったばかりの頃、台風で雨が続いたことがある。雨漏りに気づいた父は、押し入れの天井を開けて登り、バケツや洗面器を、水が落ちてくる場所に置いて降りてきた。私は、父のおかげで屋根裏へ上れることを発見した。

「見たいっ!」

毎日気になってしかたない。もちろん父の部屋から上がるのは難しい。そこで、私たち姉妹の部屋から実行することにした。当時私は、押し入れ上部を自分のスペースとして使っていたので都合がよいと思ったが、その上には天袋があったので、さらに難しかった。ピアノの椅子を運び入れ、間口ぎりぎりに立ち、鴨居に手をかけてよじ登った。天袋の中は屈まないと入れないが、まだ小さかった私には余裕の広さだった。板をずらして頭を出すと、そこには、たくさんの柱が縦横に並んでいた。

「すごぉーい」

初めて見る世界に心が躍った。ジットリと蒸せる暑さの中、父が置いたバケツを見つけた。覗いてみると蒸発したのだろう、空っぽだった。遊ばなくなったおもちゃの箱も見つけた。 下から声が聞こえてくる。気づかれないよう、そおっと、そおっと、息を殺して歩く。ドキドキ、スリル満点。調子に乗った私は、探検家になったつもりで何度も登った。しかし、ある日、ついに足を天井板に下ろしてしまった。

バリッ。

「上で何してるのっ。早く降りてらっしゃいっ!」

うすうす気づいていたのだろう。母は仁王立ちで待っていた。言うまでもない、こっぴどく叱られた。

大人になり、住まいも変わった。水たまりには、とめどなく波紋がかさなり時間が過ぎていく。 あのとき、父が置いたバケツと洗面器がどうなったのか、今も気になっている。

 

2020年9月

天までとどけ画集・仏様と童子が鯉のぼりに乗っている表紙絵

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