母の手 (鹿野山 鹿園ろくおん秋号136号)

母の手

最近、血管が浮き出た手の甲を見ては母を思い出すようになっていた。夏真っ盛りのバス停には、

日焼けした黒い腕の女の子と日傘を差した母親が立っている。この光景は私と母の夏の思い出を蘇らせる。

ごはんもおやつも作ってくれた魔法の手。食べれば皆美味しいが味噌おにぎりだけは、たまに

化粧品の味がした。留守番は苦手な私だったが、帰ってきた母の手で握られると、安心した。

ずいずいずっころばし、花札、指相撲を教えてくれたのも同じあの手だ。

「一人でも困らないように」や「ごはんが炊けて、味噌汁が作れれば何とかなる」が母の口癖。

濡れてもいいように風呂場で米研ぎをさせたり、料理を側で見せたりした。私はなるべく手を出さず、

目線より高い流し台からチラチラ見える手を眺めていた。

そんなある日、内緒でアイスを作ったことがある。母の喜ぶ顔が見たかった私は、手当たり次第に

調味料をマグカップに入れ、スプーンでかき混ぜ、冷凍庫に入れた。

「アイスを作ったから食べて」

「何を入れたの?」

「んーと、醤油 砂糖 塩 みりん 牛乳 マヨネーズ クレンザー….」

「そんなの食べられるわけないでしょっ」

叱られた理由が分からず、キョトンとしていた。このやりとりは私にとって、深く心に残っている。

今、目の前に同じ物を出されても私だって食べない。クレンザーが無かったら….。食べてくれたのか、

分からない….。

バス停の親子だって、今は反対色だが、きっと似ていくのだろう。

母のおかげで、困らない程度の家事は出来ている。私の周りには、得体のしれない食べものを

作ってくれる子はまだいないが、これから出てくるかもしれないとワクワクしながら

今日も台所に立っている。

 

2017年9月

天までとどけ画集・仏様と童子が鯉のぼりに乗っている表紙絵

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