コーヒーの景色

夕陽が斜めに入ると白い塗り立ての壁はオレンジ色に変わる。デコボコしたコテ跡の影が浮かび、外からひぐらしの声が聞こえてくる。

家で過ごす時間が多くなったので、壁紙が剥がれかかった階段のリメイクをすることにした。数年前に扱ったことがある漆喰をまた塗ろうと、シーラー、下地漆喰を取り寄せ、コテや盛り板、ヘラを物置から出してみる。準備が整い、古い壁紙をバリバリ剥がした。簡単と思っていたが、久しぶりの作業で、案外てこずった。 問題は一階の足元から二階の天井までひとつながりの広い壁面だった。もちろん脚立では届かない。階段の幅に合わせ角材をカットし、二センチの奥行きしかない長押に並べ置き、足場を作る。立ち上がると、板の隙間から遠い床が見え、足がすくむ。さすがに怖いが、ここまできたら止められない。踏み外さないように、そっと板に足を乗せるへっぴり腰の私。ジットリと汗が首に伝わる。 バケツに入った漆喰を盛り板に乗せ、コテですくって左右に動かし、塗り始める。どうにかコツをつかんだ私は、すぐ調子にのる。これは長所だと思う。最後はコテでペタペタと模様を付けられるまでになった。 毎日作業をするうちに、「綺麗、素敵ね」「ヘタくそでごめんね」と壁に話しかけるようになっていた。はたから見たらかなりあやしい私。 雨風から守ってくれ、眠りの場所を提供してくれている我が家が、さらにいとおしく「ありがとう」の気持ちでいっぱいになっていた。

陽の光で模様が変化する壁を楽しみながら、毎朝丁寧に淹れたコーヒーの香りを味わっている。

 

天までとどけ画集・仏様と童子が鯉のぼりに乗っている表紙絵

障子画・墓石画・各種デザイン制作承ります

子供・天使・仏さま・ペット等。
一枚一枚手書きいたします。
コチラよりご相談ください。