小さな夢

フライパンの上のクリーム色の生地に、小さな穴がフツフツとあいてきた。フライ返しでサッとひっくり返せば「ぱふっ」と美味しそうな音を立てて、香ばしい匂いが広がっていく。テーブルの向こうでは、言葉を覚えはじめた姪っ子が、目をまん丸くして座っている。

姪っ子のお世話をすると、母もこうだったんだろうなと思う。なんでも「良い」というものは取り入れる人だった。カルピスがその一つで、乳酸菌が身体に良いと毎日私に飲ませていた。お風呂上りにいつものようにカルピスを飲んでいたある日、私は激しく泣き出したらしい。様子が変だったので母は救急車を呼んだ。夜の病院で診察を受けると、「せっかく温まった身体に冷たいものを飲ませていたら、誰だってお腹壊すにきまってるでしょっ」と母はひどく医者に叱られた。原因はカルピスではなく、その冷たさだった。(赤ちゃんに冷たい飲み物ってどうかと…心の中でつぶやく私。)私は今でもそのときの救急車の中から眺めた夜景を覚えている。その記憶を母に伝えると、「そんなこと覚えているの?たしか1歳か2歳のころだよ」と言う。病院はどこも開いてなく何軒か回って探したこと、救急車の人が夜遅く危ないからと、家まで送ってくれたこと等、「あんたは、すぐ熱出す、お腹壊す、言うこと聞かないで大変だったわ」と懐かしそうに話してくれた。

姪っ子は、「おいちぃーい」と言葉になりきらない言葉を発しながら、足をバタつかせてホットケーキをほおばっている。私の母もホットケーキを焼いてくれた。小麦粉、卵、牛乳そして砂糖の代わりにカルピスを混ぜて焼き上げたものだった。ここでもカルピスなのだ。ちなみに私は母のレシピではなく、ケーキの素を使っている。1歳の姪っ子は大人になり、どんな小さな記憶を聞かせてくれるのだろう。

今から楽しみである。

 

2019年9月

 

天までとどけ画集・仏様と童子が鯉のぼりに乗っている表紙絵

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